不変の程度の良さはなく、無常である ――過度の危険性とバランスの流動性
人はしばしば「良い」とされるものを追い求めます。
健康、富、学び、愛、芸術――それらは人生を豊かにする大切な要素ですが、どんなに「良い」とされるものであっても、過度に偏ると危険をはらんでいます。しかし同時に、「適度なバランスを取ればよい」と単純に片付けられるものでもありません。なぜなら、その「適度なバランス」そのものも、時代や状況、心身の状態に応じて常に変化し続けるからです。
ここにこそ、「不変の程度の良さはなく無常である」という真理が深く関わってきます。
過度の危険性
仏教では「中道」が強調されます。これは単に「真ん中」を意味するのではなく、両極端に陥らない態度のことです。
過度の快楽追求は依存や退廃を生み、過度の禁欲や苦行は心身を損ない智慧の目を曇らせます。
「良い」とされるものであっても、それが行きすぎれば「悪しきもの」に転じるのです。
バランスの流動性
では「適度さ」を保てばよいのか。
ここで問題となるのが、「不変の適度なバランスは存在しない」という事実です。・子どもにとっての「適度」は大人にとって過剰かもしれない。
・昨日の自分にとって「良い量」だったものが、今日は少なすぎるかもしれない。
・文化や社会が変われば、「適度」とされる基準は大きく揺れ動く。つまり「バランス」は静止した不変の点ではなく、絶えず揺らぎながら成り立つ動的なプロセスなのです。
無常を前提としたバランス感覚
ここで「無常」という視点が助けになります。
無常を受け入れれば、「一度つかんだバランスに永遠に固執する必要はない」と理解できます。
今日の適度さは、明日には変わる。だからこそ、その都度、状況に応じて柔軟に調整していけばよいのです。瞑想においても、呼吸が深すぎても浅すぎても心は乱れます。しかし、そこで「正しい呼吸」を固定化しようとするのではなく、その瞬間瞬間の心身に寄り添いながら「ちょうどよさ」を探り続けることが大切になります。
結論 ――「不変の良さ」を求めず、流動する均衡を生きる
「不変の程度の良さはなく無常である」という命題は、単に儚さを説くものではありません。
むしろそれは、過度の危険性に気づき、変化に応じて柔軟にバランスを調整することを促す智慧です。バランスとは、どこかにある「黄金の一点」ではなく、無常の流れの中でその都度築かれる「動的な均衡」です。
そして、その均衡を探り続けること自体が、私たちの生きる実践であり、哲学そのものなのです。